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おばあちゃんの台所 素敵に歳を重ねた女性の笑顔って、とてもあたたか。ぽかぽかとした陽だまりのような、おだやかな優しさに満ちています。そんな魅力いっぱいの“おばあちゃん”のもとをたずねて、自慢の手料理を教えていただくことになりました。
第12回 和・洋・中の多彩な味を絶妙バランスで
京都に次いで日本第二の染物の町として知られる、東京都新宿区は落合界隈。この地で80年以上も続く『吉澤湯のし加工所(染め上がりや仕立て途中の反物を均等に伸ばして整える工場)』の大おかみ・吉澤政子さんは、今も毎日現役で湯のしや和裁の仕事を手がける元気な女性です。仕事も家事もテキパキとこなし、中でも工場で働く職人さんたちの分まで長年作ってきたという、料理の腕前と手際の良さは実にお見事! お孫さんやお友達にも大好評のご自慢メニューに、秋らしい食材も取り入れた献立を作っていただきました。

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1)同居している息子さん夫婦とお孫さんに囲まれて満面の笑み。今夜は、近所に住む娘さん夫婦や親しいお友達も招いて料理をふるまい、にぎやかなホームパーティーとなりました。2)忙しい中、時間を捻出しては旅行に行くのが楽しみ。国内、海外はもちろんですが、日帰り温泉も大好きでサウナやマッサージもじっくり満喫するのだそう。3)フライパンから大皿に移した特製餃子は、大輪のボタンの花のような並べ方がプロ並みです。4)和食、洋食、中華と、あらゆるジャンルの味が並んだ豪華な献立です。5)秋の味覚、松茸ご飯は木造りのおひつに盛り付け。器を工夫すると秋らしさがよりいっそう際立ちます。
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反物に囲まれて育ち洋裁と和裁を身につける
 東京・高田馬場で染め物店を営む両親のもとに、次女の政子さんが誕生したのは昭和10年(1935年)。私立の女子高を卒業後、文化服装学院で洋裁や手芸を身につけ、さらに家業を手伝いながら4年間和裁を学ぶという勉強熱心な少女時代でした。「姉と二人、着物や反物に囲まれて育ちましたから、家業を手伝うようになったのも自然のなりゆきでしたね」。
 年頃を迎えて知り合った3つ年上の男性は、地元に近い早稲田大学出身で、湯のし加工所の後継ぎ息子。着物の知識や和裁をひと通り学んできた政子さんにとって、とても身近な存在でした。そして23歳で結婚すると同時に、政子さんも加工所を担う即戦力の働き手となったのです。
 その後、長男、長女を授かり仕事と育児に奮闘した30代が、今振り返ると最も苦労が多かったそう。「義母と義父が相次いで入院しちゃってね。約6年間、早朝から深夜まで、看病と仕事と子育てで本当に忙しかったですよ」。懸命の看病もむなしく義母が、その後を追うように義父も他界。政子さん一家が若くして加工所を支えることになりました。
 二人の子供は成長し、やがて結婚。息子夫婦と同居して孫にも恵まれます。70年代後半には静養の意味もこめて箱根の温泉付きマンションを購入。休日はそこでのんびり過ごす機会も増えていきました。


箱根での突然の出来事が一家にとって大きな転機に
 おだやかな生活が急変したのは1998年8月14日。家族でハイキングを楽しんでいた箱根の山道でご主人が不整脈で突然倒れ、なんと崖下に転落。一瞬で帰らぬ人になってしまったのです。「夫婦ゲンカは一度もしたことないんです。本当にいいお父さんだったの。だからどうしても信じられなくて……」と語る政子さんの目に、みるみる涙があふれます。とてつもない悲しみの中、一家はすぐに帰宅して自宅で葬儀を執り行い、お盆休みあけの17日から予定通りに加工所の営業を再開します。大黒柱を亡くした仕事場を家族と親戚が精一杯支え、ピンチを乗り越えたのでした。「1年は泣いて暮らしました。でもよく考えたら、サラリーマン家庭と違ってお父さんと私は24時間ずっと一緒にいられたんだものね。ありがたかったと思わなくちゃ」。
 2001年、一家は思い出深い自宅を全面建て替え。4階建てマンションの1階に加工所、4階に自宅を構え、2・3階には賃貸マンションを10室経営することになりました。ご主人の不幸が、加工所と家族の将来設計を改めて考えるきっかけになった部分もある、と政子さんは語ります。
 現在もお嫁さんと共に家事をこなし、朝9時から夕方5時まで加工所のミシン縫いを担当。夕食後には、柄付け前の白生地や染め上がった反物を着物の形にするために手縫いする「仮絵羽」の仕事に没頭する政子さん。「昔お父さんによく“おまえはいつも楽しそうに縫い物をしてるな”って言われて。当時と同じように縫い物をする、その時間がとっても楽しいのよ」。大好きなピアノ音楽をBGMに、チクチクと針が進んでいきます。
 近所の仕事仲間がことあるごとに相談にやってくる、“着物の生き字引”的な存在の政子さん。「私が誰かのお役に立つのなら、それだけで十分幸せですよねぇ」。その充実感ゆえでしょうか、70歳を目前にした年齢にはとても見えない若々しさに、思わず見愡れてしまった私たちでした。
義母から受け継いだ
けんちん汁を皆にふるまう
義母の得意料理だったけんちん汁を、政子さんが見よう見まねで作るようになったのは、嫁いで間もない20代の頃から。「母は口数の少ない人でしたから直接教わったことはないけど、後ろ姿を見ながらいつの間にか覚えたのがこの味です。いつもたくさん作って、職人さんたちや子供たちの友達、近所の皆さんに食べてもらっているんです」。豆腐をゴマ油で炒めて、スを入れるようにしてから煮るのがコツだそう。ホームパーティーには必ず登場する人気メニューです。
けんちん汁けんちん汁  
撮影協力〈敬称略〉/吉沢 敏(吉澤湯のし加工所)
構成/松田優子 撮影/小川玲子 取材・文/水野成美
政子さんが伝授するレシピ はこちら



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